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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

で――、やや明快な面をあげ、サッと海風のくるほうを眺めると、今、淡路の潮崎と岡崎の間を出てゆく十五反帆の船が目につく。

帆じるしをみて、重喜にも、それが商船であることが分った。

月に一度ずつ、大阪表へさして、藍、煙草、製紙などを積んでゆく、四国屋の船である。

と思うと、脚を深く入れた、塩積船が出てゆくし、あなたからも岡崎の港へ、飛脚船や納戸方の用船などかなり激しく入ってくる。

その海上往来のさまをみているうちに、阿波守は、またかすかな不安をおぼえだした。

「ム。何ごとも、惧れるものはない。しかし、あぶないのは、領内へまぎれこむ他領者だ――ことに江戸から目的を持って入りこむ奴じゃ。天堂一角の通知があったので、取りあえず、この春の道者船はさし止めたが、あのように、頻繁な船入りのあるうちには、どんな者が、どう巧みに入りこまぬ限りもない……」

今まで懸命に、意志を支えていたものが、グラグラと揺れだして、極度に、重喜の壮図をおびやかしてきた。

でなくとも、かれは、ここ数年の間、内面的に、すくなからぬ細心と辛労を抱いてきたので、近頃は、かなり強い神経衰弱にかかっていた。