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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
待て――というらしく、喉へやろうとする刃の手もとを握り止めている。
龍耳老人の短銃にうたれて、弦之丞が一弾に絶命したものと早合点したのは、旋風のような危機に吹かれて、何より先にお綱の心そのものが、平調を欠いてしまった証拠だった。
さすがに、お綱ほどの女も顛倒していた、血が逆上っていた。
弦之丞の撃たれた箇所は、右胸部の上、腕のつけ根に寄った所で、一時、仆れたものの、急所ではなく、起てない程の傷手ではなかった。かれは、その瞬間かすかながら、対手がすぐと次に、止刀を刺しに近づくであろうという意識をもって待っていた。
だが、老人は不解な行動に移っていた。弦之丞も傷口の出血を抑えきれず、霞にぼかされてゆくように気が遠くなった。
お綱に胸を押されて、気がついた。ほとんど無我に、刀の手をつかんだのである。
弦之丞が目をみひらくと、お綱は何か大声で叫んで、夢中な手で扱帯を裂き、朱になったかれの腕根をギリギリ巻きにする。
弦之丞はなすままになっていた。
しばらくして、やっと身を起こすと、まだらな血の痕に、草の実がいッぱいついた。かれの面は、まだ青白かったが、どこかに気力の熱が燃えかえってくるようであった。