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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
「私めは、評定所与力、熊谷六次郎と申すものにござります」
と、挨拶をした。
ウム、と左京之介はうなずいてみせるだけだった。評定所与力と町与力ふたり組で密使をよこしたのは何か、公然と大目付のくるよりは重要な使いだな、と察している。
案の定、ひとりの与力は肌につけてきた密封の公書を左京之介の前へさしだして、
「評定所七の日の御決定書でございます。御覧の上は、封皮へ御入手のおしるしをいただきとう存じまする」といった。
「大儀だった」
左京之介はその場では読まないで、封皮の黒印だけを切り破り、証を与えてふたりへ返した。
公の密書には返辞がないのが普通である。返辞のいる場合には、改めて別な密使をこっちから立ててやる。或いは、空文を持たせて、本ものはわざと通常の文書の定飛脚にまぎれこませてやったりする例がある。で、内容はとにかく、中西、熊谷、ふたりの役目はそれですんだことになった。
左京之介はその後で、まだ読まない評定所からの書状をもって居間へ入った。
ここは公務の疲れをいやす茶荘で、上屋敷でも下屋敷でもないところから、十分、くつろげる家である。しかし、また二条の役所へ戻る用もあるとみえてかれは袴を解かない。