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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
「姉ちゃアン! 姉ちゃんを助けてッ……」
と、たった一声。
「あっ……そうだ!」
と万吉は、初めて、どやされたように思いだしたことがあって、
「悪かった! 途中で出っ会したか。ウウム、こういうことになるなら、知らせておくんじゃなかったのに」
と、足もとも見ずに、駈け下りて行った。
と、やがて万吉は、お久良と一緒に汗をかいて、泣きわめくお三輪と乙吉を、ひきずるように抱えてきた。
けれど聞き分けのない童心は、どんなになだめすかす言葉もうけ入れないで、あらん限りの声を木魂につンざかせて、
「いやだ、おさえちゃいやだッ」
「助けてよう! 姉ちゃんがつれられてゆく」
「お綱姉ちゃアん! ……」
「離してッ、おさえちゃいやだ。おじさん、ばか! ばか! ばか!」
と、抱き止めるものの手を夢中で引ッ掻いた。
だがそれも、どこからか、思いがけない一節切の音が流れてくるとともに、たかぶっていた幼い神経をなだめられて、シーンと深い静寂に返ってバッタリと泣きやんだ。
葛、山萩、女郎花、雑草にまじる青白い蕎麦の花、盛りあがった土のまわりに、離々と露をたたえている。その土まんじゅうの上にのせてある一ツの石こそ、前の年、この禅定寺峠で、犠牲的な死をとげた唐草銀五郎の空骸を埋けた跡の目じるし。