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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
十四
さて音訪るる格子戸は、向うへ間を措いて、そこへ行く手前が、下に出窓、二階が開いて、縁が見える。
「お孝さん。」
と無遠慮に心易く、それなり声を掛けるのには――二人の間は疎遠でないが――いずれも名取りの橋の袂、双方対の看板主、芸者同士の礼儀があるので。
一歩とまって、二階か、それとも出窓の内か、と熟と視めて、こう、仰いだ清葉の目に、色糸を颯と投げたか、とはらりと映って、稲妻のごとく瞳を射つつ沈んで輝く光があった。
驚いた鬢のほつれに、うしろの羽目板で、ちらちらと一つ影が添って、重った蒼い影。
優しいながら、口を緊めて――透った鼻筋は気質に似ないと人の云う――若衆質の細面の眉を払って、仰向いて見上げた二階の、天井裏へ、飜然と飛ぶのは、一面、銀の舞扇である。
十四
きらりと光ると、扇は沈んで影は消えた。
……が、また飜って颯と揚羽。輝く胡蝶の翼一尺、閃く風に柳を誘って、白い光も青澄むまで塵を払った表二階。
露地も温室のような春の中に、そこに一人月のごとき美人や病む。
扇に描いたは、何の花か、淡い絵具も冷たそうに、床の柱に映るのが見える。
落ちると、トンと幽な音。