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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
生理学教室
四十八
」
と襖に縋って、暗い方へ退る男と、明く浮いた枕を見交わす。
「姉さんで可愛がられるのに不足なら、妹にまけて可愛がられて上げましょう。従姉妹になってなかよくしましょう。許嫁でも、夫婦でも、情婦でも、私、まけるわ、サの字だから。鬼にでも、魔にでも、蛇体にでも、何にでもなって見せてよ、芸人ですもの。」
と裳を揺って拗ねたように云いながら、ふと、床の間の桜を見た時、酔った肩はぐたりとしながら、キリリと腰帯が、端正と緊る。
「何の、姉妹になるくらい、皮肉な踊よりやさしい筈だ。」
掻巻の裾を渚のごとく、電燈に爪足白く、流れて通って、花活のその桜の一枝、舞の構えに手に取ると、ひらりと直って、袖にうけつつ、一呼吸籠めた心の響、花ゆらゆらと胸へ取る。姉の記念にやわ劣るべき花柳の名取の上手が、思のさす手を開きしぞや。
その枝ながら、袖を敷いた、花の霞を裳に包んで、夢の色濃き萌黄の水に、鴛鴦の翼に肩を浮かせて、向うむきに潰島田。玉の緒揺ぐ手柄の色。
「葛木さん。」
「…………」
「人形が寂しい事よ。」
生理学教室
四十八
お孝は黒繻子の襟、雪の膚、冷たそうな寝衣の装で、裾を曳いて、階子段をするすると下りると、そこに店前の三和土にすっくと立った巡査に、ちょっと目礼をして、長火鉢の横手の扉を、すっと縁側へ出て行く。