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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
わたくしは無性に恐しくなって、その偽の遺書を火鉢に燻べてしまったのでございます――』
3
この陳述は係官を納得させたらしい。
『では、矢張失恋自殺でしょうかな。』
『いや、むしろ情死と見なすべきだろう。』
彼等はそんな意見を云い合った。
それから、追って沙汰をする――ことになって役人の一行は引き上げかけた。
ふと、この時、さい前の刑事が電気に打たれたようにぎくりとしたのである。
『このピストルは小野さんのですね?』と刑事は葛飾に訊ねた。
『そう――一昨年僕と二人で上海へ遊びに行った折、買ったものです。』
『届けは?』
『してありません。』
『ふむ――』
刑事は死体と一番近い部分の壁を一心に瞶めている。白い壁の面に一銭銅貨程の大きさに、新しく欠け落ちた箇所がある。
『あの痕はどうしたのですか?』
『知りませんね。僕はそんな些細な莫迦げたことを気にかけたためしはないのです。』
と葛飾は腹立し気に答えた。
刑事はそれを黙って聞き流しながら、しきりにその壁の欠け目の位置を目で計った。
刑事はピストルを手巾で注意深く取り上げて鞄に入れて帰って行った。
刑事は路すがら考えた。