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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
嘘
雪降りで退屈で古風な晩であった。
井深君の邸に落ち合った友達が五六人火のそばに寄って、嘘吐き――話の話しくらべをした。自分の素晴しい嘘で人を担いだ話や、またはそのあべこべのしくじり話やらをめいめいが語った。
そしてさて、主人の井深君の番になった。井深君は、誰よりも一番多くその生れ付きの中に小説家的な要素をもっていたばかりではなく、日頃の生活も当り前の様式とは少からず異っていたので(――それらの点はこの話を聞くだけでも直ぐ察せられる事なのだが)誰も斉しく井深君の番になるのを待ち構えていたのだった。
――偽瞞こそあらゆる芸術の本体だ、と誰かそんな風な事を云った西洋人があった。嘘と云っても、それが何人にもどんな損害をも与えない場合になら勿論少しも悪かろう筈はない。昔噺をして聞かせるのとちっとも変りはしないのだもの。僕は御存じの通り非常な空想家だ。それだから、つい思わぬ無用な嘘を吐く時がある。何故と云って、空想を最も効果的に他人に伝えるためには、どうしても大きな嘘を吐かなければならない事になるのだから。……で、これから話す話は、僕がひょっとしたはずみにくだらない嘘を云ってしまったお蔭で、意外な莫迦を見た話なんだがね。