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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
だが、――またその翌日の夕方になると、私は姉の後姿を窓から見送って、それからさて、れいの並木の方を眺め渡すのであったが、女はその言葉通りあの夜以来とんと姿を現わさなかった。男の姿も――あの男は、あの夜五分遅れてやって来て、彼女に思いがけない私という新しい恋人の出来たことを見てしまったのでもあろうか、とにかく再び姿を見せなかった。
並木の上に月が出ても、甃石へうつる影は並木ばかりであった。
私は窓の縁に、深い溜息をついて、もう決して髭を剃るまいと心に誓った。
6
私の髭は日ましに青草のように勢いよく延び初めた。今朝目をさまして見ると、もう殆どつけ髭にも劣らない位立派に生え揃っていた。
姉は勿論、怒って、泣いた。けれども私は、固い決心をもって姉のたあいもない我儘に抗った。
――髭を生やすことがなぜいけないのか?
私は、毀れてしまった操り人形のように、あわれにも精も根も尽き果てた様子で、明るい真昼間の日ざしの中で眠りこけている姉の寝姿を見ていると、自分もつい悲しくなるのだが、しかし私は姉をそんなに不幸にしてしまったとしても、それはあくまで自分の罪でないことを、自分の胸に幾度も云いふくめた。