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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
――どうしたの?……家へ帰り度くなったの?」
――いいえ。……でも、なぜあなたのお家の赤い煙突からは煙が出ないのでしょうね。」
――どうしてそんな事ばかり云っているの。……へんなお嬢さんだなあ。」
――あの赤いのは、それでも何だか、あたしみたいな気がして可哀相なんですもの。……ねえ、そう見えるでしょう。……両側の大きいのはお父さまとお母さまよ。……」
青年は自分の邸の屋根を遙かに眺めて当惑した。
冬が来て、毎日のように雪が降り続いた。彼女は今度は肺炎に罹った。今度こそ助からないだろうと人々は思った。隣の邸の青年は昼も夜も彼女の枕辺から離れなかった。彼女の両親はようやく青年を不思議な人間だと思った。
彼女は熱に浮かされている間中、かさかさに乾いた唇をあえがして譫言を云った。
――あたしの赤い煙突!……あたしの赤い煙突!……屹度病気なのだわ……可哀相なあたしの赤い煙突……」
青年は窓の外を見た。夜が更けて雪が降りしきっていた。向い側の真白な屋根の隅に、三本の煙突の黒い影があった。両側の二本はこうこうと鳴りながら薄赤い焔を上げていた。しかし、真中の哀れな一本は、雪に塗れ寒く小さかった。