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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
Read アンドロギュノスの裔 (アンドロギュノスのちすじ) by 渡辺 温 (わたなべおん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,168 characters · 267 screens
花嫁の訂正
1
二組の新婚夫婦があった。夫同士は古い知己で隣合って新居を持った。二軒の家は、間取りも、壁の色も、窓も、煙突も、ポオチもすっかり同じで、境の花園などは仕切りがなく共通になっている。
一週間経つと花嫁と花嫁とも交際をはじめた。
「――お隣の奥さん、今日も一日遊んでいらしたのよ。」
そうAの細君が、勤めから退けて来たAに報告るのであった。
「二人で、どんな話をして遊ぶんだい?」
「あの方、それぁ明けっぴろげで何でも云うの。あたし、幾度も返事が出来なくて困ったわ。」
「たとえば?」
「あのね。……あなたの御主人は、朝お出かけの時、今日はどのネクタイにしようかって、あなたにおききになる? なんて訊くの。」
「返事に困る程でもないじゃないか。」
「それから、あなたが泣くか、っても訊いたわ。」
「僕が泣くか、だって?」
「ええ。あたし、だから、未だ一ぺんもAの泣いたのなんか見たことがありませんて、そう云ったの。」
「してみると、Bの奴女房の前で泣くのかな。――あんな本箱みたいな生物学者を泣かすなんて、どうも偉い細君だな。いやはや。」
Aは煙管の煙に噎ぶ程哄笑ったが、哄笑いながら、細君の小いさなギリシャ型の頭を可愛いくて堪らぬと云ったように撫でてやった。