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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
四
「鐘を聴いてから、四半刻(三十分)も経ったように思うか」
「前からのお約束で、亥刻からお酒の仕度をしたり、いろいろしましたが、それから暫くはお待ちしました」
本郷二丁目からここまで、四半刻とかかる筈はありません。
平次はここを宜い加減に切り上げて、二丁目までの途々、二カ所の辻番と、一丁目の町木戸に訊いてみましたが、源左衛門は、表通りを避けて、ゆっくり歩いた様子で、どちらも気が付かなかったというのです。
言うまでもないことですが、旧幕時代の江戸の治安は、なかなかよく気を配られたもので、今日から考えたほどだらしのないものではなく、辻番所の数にしても、今の交番などよりは遥かに多く、駕籠のほかには交通機関というものがなかっただけに、取締の目は届いたわけです。
四
平松屋には、湯島の吉が待っていました。土地の下っ引で、八五郎と馬の合いそうな、忠実な男です。
内儀のお駒の死を、自害でないと言い出した、八五郎の考え方は、たったひと目、現場を見ただけで、平次にもわかりました。これは全く、自害であるべき筈はありません。が、内儀の死んでいる離屋の一室は、完全に外からの通路を遮断されて、内儀の作った座敷牢、言葉を換えて言えば、『黄色い部屋』