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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens

Aozora Bunko

途中ふり返る度に湖水をこえて奥白根の絶頂が高く仰がれる。つい今しがたまで粘り付いていた雲は、山の膚に薄く白いものを残して消え去ってしまった。空は真綿を引伸したような高い巻層雲に掩れているけれども、眺望は次第に開けて、さし添う日光と共に体も漸く汗ばんで来た。

再び笹や倒木の中を下ると、また同じ様な登りとなったが、これは直に終って、余り高低のない尾根を辿り、少し下ってから登りついた所は二千七十米の峰である。峰というよりは寧ろ長い平な尾根の突端というた方が適切であろう。南に丸沼大尻沼が不恰好な瓢箪の形をして現われる。あたりとは少しも調和しない養魚場の赤い屋根が異様に光っている。北には真黒な針葉樹林に囲まれて鬼怒沼の原が狐色に暖そうだ。其原の水を集めて流れ行く鬼怒川の谷は、ほんの上流の一部が此処から見られるのではあるけれども、心をおののかすような豊麗にして深刻なる色彩の世界を暗示するに足るものであった。

伐り倒された大木が朽ち残った白骨のような枯枝を縦横に逆立てている深い笹原を、針蕗に刺されながら泳ぎ抜けて、昼も暗い白檜唐檜の深林に入った。朽葉の積った柔い土の香と軽い樹肥の香とが苛立った神経を落付けて呉れる。