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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
釜谷の奥
其時まで執念深く竿を握っていた金作を、皆して大声に呼んで見たが元より聞える筈はない。南日君が迎えに行く、啣え煙管で帰って来た金作は「此処の魚は喰い付くことを知らんぞ」と言って皆を笑せた。
釜谷の奥
午後になってから益々雲が多くなった、岳に近づいた所為もあろうがどうも空模様が面白くない。唯だ割合に雲が高いので心丈夫だ。渓はそろそろ浅くなって、至る処に雪の働いた跡が見られる、其処には山を出て未だ士気の失せない※々した岩が、押し重って危く谷を覗いている、水に洗われ磨かれて肌理がこまかくなった旧い仲間を羨むように。雪に近づいたなと瞬間に意識する。山は創だらけになって露出した岩壁が痛々しい。谷が大きくくの字に曲ると、突き当りの山の肌が赤剥けにずり落ちて其下に屋根形の大残雪が懸っていた、檐下を抜足で通り抜ける、縁からも天井からも雪解の雫が破ら屋を洩る雨のように滋く落ちて、縮めた首筋から脊中へかけてびっしょり濡れる。ゴトゴト軋む破片岩の長い階段を越えて河原に立つと、正面に眉を圧して猫又谷の大雪渓が、奔騰する雲の中から私達を誘き寄せるように姿を顕した。狭い河原までが其方に開けて、幾筋かに分れた細い水が赤錆びた小砂の間を蜘蛛手に流れる、こんもり繁った闊葉樹が五、六本、河原を斜に翠蓋を拡げて、其間から雪渓の続きが白くチラチラ