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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
早々振り捨てるようにこの野営地を立った。
日光沢の外には鬼怒川へ下る道はない、ということを聞いたと大金がいうので、兎も角も空沢との出合まで沢を戻ることにした。乾き切った河床も昨夜来の大雨でチョロチョロ水が流れている。高い滝なども懸っていた。あの暗がりによくもこんな所が下りられたものだと空恐ろしくもなる。
沢を離れて黒檜や羅漢柏の密生した山腹に潜り込む。日光沢からの登路が若しあれば夫と交叉するように、北微東を指して緩い上りを続けた。ぶくぶくした腐埴土が崩れて、踏む足の下から水がだぶだぶ湧き出したかと思うと直ぐ又何処かへ吸い込まれてしまう所などもあった。刈り払われた跡のように笹の若芽が延びて、夏の間に人でも通ったかと疑わしめる所もあった。刃物の切り跡などが明に道とも認められるので、夫に跟いて行くと下草の絶えた木の間でいつか見失ってしまったことなどもあった。けれども終に登路らしいものには出遇わなかった。
風が西に変って復雨が強く降り出した。時折木立が透いて展望のききそうな場所に出るが、意地の悪い霧が忽ち目隠しをしてしまう。深い笹を押分ける苦しさにいつとなく下りに向った脚元が急に明るくなって、右の方に大谷が口を開いていると気が付いた折などは、慌てて上の方へ引返したりした。