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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
三尺許りの杭に査何号と書いて頭に釘を打った標木を唯一の頼りとして、切明けの跡を失わぬように登って行く。一の小高い所を越えて八時二十分雁坂の山頂に達した。櫓は切り倒されて三等三角点の標石だけが埋めてある。十分間程休んで破風方面の雲の晴れるを待って見たが、少し明るくなったと喜ぶ甲斐もなく、すぐ又暗くなるので磁石と切明けを力に思い切って西に下り始める。梭葉草が非常に多い。風揉めの為に立ち枯れた木が時々骸骨のように白くされて途に倒れているのもあるが、下生えの若木が無いので甚しく邪魔にもならない。下り終って登りに懸ると切明けの跡が覚束ないものになって、灌木が茂り出す。秩父方面を搦みながら暫く横を辿った。然し山稜の最高所を余所にして歩いては、他に紛れ込んでも気が付かずにいる恐れが多いので、密生した石楠を押分けて再び山稜の上に出た。何という大きな岩だろう。嶄巌磊※とはこんな光景を指していうのであろう。そして其岩が皆花崗岩であるのには更に驚かざるを得なかった。岩間には岩鏡、一葯草其外名も知らぬ紅や白や桃色の花が咲きこぼれ、特に一面に叢生している石楠の大木は、殆んど白に近いほど極めて薄い桃色のさした花を枝も撓む許りにつけて、今や真盛りに咲き誇っている。