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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
に、容れ物に応じて並べ方を替えてある。其花の色が頗る鮮かで、生きた花と変りない。私はそれを塩漬の桜の花のように湯に浸して賞味するものかと思ったが、そうではなく、単に見る物であることを後に知った。余り奇麗なので、先の長い道中の荷厄介を承知しながら、勧められる儘に五箱ばかり買った。斯うした土地の産物を泊り客に売りに来ることは、昔は珍らしいことではなかった。
一人旅の心安さに朝の出立は兎角遅くなり勝だ。寝覚の里の南はずれまで行くと、教えられた通り駒ヶ岳登山道と書いた杭があった。小径を東に伝って滑川の畔に出で、夫に沿うて河原を小一里遡ったのであるが、左岸であったか右岸であったか覚えがない。瀑も見た。記行には夫を敬神の瀑とはっきり書いてしまったが、吾ながら今も迷っている。
上松からの登路と合したことは少しも気付かず、しばし谷間を辿ったかと思うと、路は左を指して嶮しく急な上りとなり、忽ち昼も薄暗い檜の大深林の中に抱き込まれて了った。路とはいうものの一条の細径たるに過ぎない。それも或は灌木や篶竹が掩いかぶさり、或は木の根や岩角が段を成し、時としては倒木が横たわり、大巌が面前に屹立するなど、一人では全く心細いものであった。