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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens

Aozora Bunko

下を潜れば荷物が支える。僅の距離を登るのに一時間を費した。果して測量の櫓が現れて来る。頻りにいている南日君を待ち合せて、三時に櫓の下で休みながら昼飯の残りとビスケットを平げた。当時は此山の名を知らなかったので、多分四十二年の十月甲武信岳に登った時、其処から東南に眺めたあの山であろうと想像的断定を下し得たに過ない。

三時十分、西北の斜面に沿うて下り始める。少し行くと左にガレがあって、其縁によく蹈まれた道らしいものが通じている。南日君は夫に跟いて下ろうと主張したが、どうも少し方向がまずいので、南日君もとうとう我を折って右の林莽中に幽かに残った切明けの跡らしいものを目当に下った。今考えると南日君の主張した道らしいものは、実際道であったかも知れない。一概に獣の路とはいわれないような事情がある。然し其時若し此道を下れば、あの恐ろしい釜沢に迷い込んで、今の半分程もあの附近の地勢を知らぬ二人は、よしや食糧が豊富であるにしても、第二の大黒茂谷の悲劇を演出したかも分らない。釜沢、釜沢、奥秩父に数多い沢の中でも、青葉に埋められた美しいこの沢は、同時に又最も恐ろしい沢の一である。