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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
呼んでいた、向う河岸に人の通った跡のあるのが長次郎に判ったのである。又前のように砂地を行く、夫も長くはない、獣でなければ通れないような藪が直ぐ両側から水際まで押し寄せて来た、私達は自ずと河に下りて水の来る方をちょいちょい仰ぎながら、目の前の岩から岩、浅瀬から浅瀬を覓めて渉らなければならなくなった。
谷は流石に荒蕩たる有様を呈して、岩を見ても水を見ても大分上流に来たなと首肯かせる。岩の色は一様ではないが皆花崗片麻岩だ。見る限り褐色や渋色をなすりつけた黒白斑の大岩塊が、縦に欹ち横に伏して、頭上二、三尺の高さに不恰好な階段を築き上げている、私達は取りつき端もない階段の下に立って、未練らしく手足を掛けて見たりなどした、夫でも水の鉋に削られた岩の屑が堆く積って、易々と乗り越せる所もあった。谷水は谷水で、青い淵からむくむくと起ち上ると、いきなり岩に衝きあたって力任せに抉り抜け躍り踰え、果ては脚もとの小石までもさらってドッと駆け下りさま空を切って復た淵の中に潜まる。力の籠った吐息が無数の気泡となって、大地の底から沸き上って来る。重く淀んだ谷の空気は、岩を叩き岩に叩かれる水の音に震動して、話声などはもうとうに聞えなくなった。