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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
これから先も同じ崖続きであるが、木が多いので骨の折れる代りに少しも危くない。下から遥に見上げた大岩の下を向うに廻ると、谷が右に折れて目八分の高さに雪渓の端が顕れた、其処には全石を底とした六尺許りの滝があって、雪渓の下から走り出た冷い水が、練絹を垂れかけたようにするすると岩壁を駆け下りている。右側は上れないので、滝の下を徒渉して、左側の大きな岩の上に皆疲れた体を休めた。
十日の後大町の対山館に泊って、久振りに酒の香を味いながら、今度の旅行で一番苦しかったのは何処だったろうという話の出た時、それは釜谷の上りだったということに誰も異議は無かった。直径にすれば三町にも足らぬ場所に一時間余を費したのであるから、余り楽な登りではなかったに間違ない。
疲労に伴う四肢の倦怠と懶い気分とが、容易に体を起そうともしないのを、無理に引立てるようにして此処を出懸けた。長い雪渓が始まる、勾配は可なり急ではあるがカンジキを穿く程でもない。両側を限る山裾は刈り込んだように矮い灌木が叢生している許りで、あれ程人を苦めた絶壁はもう影も形も見せなくなった。私達は時折立ち停っては二言三言いい交しながら、雪の表面に印した波紋のような凹凸を一歩一歩に蹈んで、知らぬ間にグングン登って行く、もう余程登ったろう、行手左よりに近く山の鞍部らしいものが見え