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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
白兀の右には二千六百米に近いと想われる大窓の頭が、朱泥をなすり付けたような凄い顔をして此方を向いて居る。赤裸の肌にも偃松の胸毛だけが蒼黝い。更に其右には小窓の谷底から躍り上ったような嶄岩の列が、執念の手を伸して追い縋ろうとする雪の前に、美しい緑草の斜面を展開したり、恐る可き崩岩の礫を投げ下したりして、威しつ賺しつ、後ろさまに身を退きながら、爪立ちになって一斉に覗き込んでいる。私達は之を小窓の頭と命名した。其上には劒岳の東の肩ともいう可き三窓続きの更にいかめしい幾多の岩峰が、脚元から千仭の谷底目掛けて頽れ落ちる崩石の群を冷やかに瞰下ろして、断崖の絶端から絶端へ天斧の削痕尚お鮮かなる大尖柱を乱杭のように押し立てている。早月川の谷から力の籠った而も穏かな山稜の波が遥かの空際をうねって、この尖柱の森列せる断崖がなおも西へ延びた突端迄来ると、一躍之を越えて虚空に跳り上りさま、稍や円味を帯びた空線を描いて、更に東へ向けて掬うように雪崩れ込んでいるのがわが劒岳の絶巓である。天に近きこと約そ三千米、額には雪の宝冠が白金の如く輝いている。
二時間余り無駄に遊んで、悠々と此処を出懸る。