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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
山勢が稍や穏になって、所々の草間に珍車、白山一華などの白い花がチラホラ目に入る。張り詰めた気が弛み懸ると今度は、登り降りの激しい駱駝の瘤の様な岩峰が続いた。何とはなしに一種の緊張した気分になって、足早に辿り着いた所は、岩の裂け目に喰い込んだ大雪渓の上端である。雪渓は急に額を掠めて、山の半面を横なぐりにそぎ落した崖腹にのし上っている。何でも今日は山が手を替え品を替えて、偶に入り込んだ人間の私達を翻弄しているのではないかと想った。崖にのり出した西側の偃松に攫まってグングン登って行く、見上げるような大巌が行手に高く現れたと思うと、夫は劒岳の頂上であった。次で間近く小窓の頭、大窓の頭が肩から胸、胸から腰と次第に迫り出して、青く淀んだ沈静な大気の中に、半面に夕日を受けて赭黒い逞しい筋骨が生きて動くかと思われた。私は四葉塩竈などの咲いている岩間の短い草原に突立って、大手を拡げて四十度の熱を患っている人のように喚き散らしている自分を見出した。此処が此年頃心に懸けて忘れることの出来なかったあの白兀の絶巓なのだ。三日間山の上の苦しい旅を重ねて、明日は愈二年越しの宿望であった「大窓から劒岳に登る」