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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
茶屋の側の薄暗い木立の下を少し西に降ると、川に臨んだ絶壁の上に仏岩が立っている。今にも倒れ落ちそうで危い。能く視ると荒削の仏像に似たようにも想える。岩には青苔が蒸して、台のあたりはギボウシが手向の花のように咲いていた。乾からびた妙な物が炉の上に吊してある。何かと聞いて見れば熊の臓物であるという。里程表に、五味平へ十九町、別道へ二十二町、黒薙温泉へ三十二町、二見温泉へ三十五町、鐘釣温泉へ二里二十二町と書いてあった。対岸に嘉々堂谷を見送り、行手に森石谷を迎えて、間もなく植林した落葉松林の美しい五味平を過ぎると、黒部川第一の貢流黒薙川の釣橋を渡った。上流はすぐ屈曲している高い岩壁に遮られて、ほんの一部しか望まれない。水の色は藍緑に冴えていた。
これから少し河の縁を離れて、平な草地を辿ったり植林した杉林の中を通ったりする。此時雷鳴と共に大雨が降り出したので、七谷越の高い峭壁を横切る際には、上から落ちて来る滝のように急な谷川の水を頭から浴びたりした。稍下った処は猫又谷の出合で、崖から崖へと一ぱいに漲り溢れて急瀬を躍らしている本流の横へ、左から雨で水量の増した赤黒い色の濁流を石と共に押出していた。