Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
奥鐘山の大岩壁
見上ぐる谷の空は両方からのし懸る山と山との間に仕切られて、明り窓のように細長い。其筈である。向う岸は八百米もある百貫山の急斜面が手の届く程に近く、此方は又三名引の山裾が西鐘釣山となった岩壁で、それも首の痛くなる程仰向かなければ頂上のあたりは眼に入らないのだ。脚の下深い谷底から唸りを持った水声が満谷の空気を揺がして衝き上って来る。体が痛い様に縮まる感じだ。こんな処に温泉宿があろうとは嘘のようにしか思われないが、山に沿うて建てられた幾棟かの客舎を見るに及んで、安心したように吃驚しない人はあるまい。鐘釣温泉に来たのだ。湯は水楢などの大木が茂っている川べりの岩壁の下からだぶだぶ湧き出して、清浄な砂を底とした天然の岩槽に湛えたまま、人の勝手に浴し去るに任せてある。全く周囲の自然と旨く融合している。宿からは直ぐ下に当るのだが、廻り道をするから一町許の距離になる。今は浴客の込み合う時で、中村君と私だけは宿の人の居る隣の部屋に漸く泊めて貰った。
奥鐘山の大岩壁
三十日。朝起きると庭に出て先ず空を仰いだ。鼠色の雲が五、六本の白くされた枯木の立っている百貫山の一角を掠めて、のろのろ爬い廻っていた。