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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
それも長くは続かず、足場が悪くなってまた河に追い下ろされる。直立した岩壁は高くはないが二丈位はある。綱がなければ如何にもなるまい。こんな事を二、三度繰返したので、小うるさくなって、つくづく雪渓の恋しさが身にしみて思い出された。
此谷にも仙人ノ湯の外に、湯のにじみ出している処が数ヶ所ある。孰れも湯垢が岩壁の面に奇怪なさまざまな線を描いている。其中の一箇所では稍湧出量が多く、岩の間の河原になみなみと湛えていた。一浴を試みたい気持に駆られたが、すぐまた汗になることを考えて思い止った。
一時二十分。待ち憧れていた雪渓に達した。もう占めたものだ。顧ると谷の正面を限る後立山山脈には、積雲の大塊が屯して盛に活動している。もくもく湧き上る白銀を溶したような頂のあたりには、領布雲が二すじ三すじ横に靡いていた。行手を仰ぐと仙人山の尾根には雲が低く垂れて、一雨来そうな気配である。遠雷の響が何処からともなく聞えて来る。雪渓を吹き下ろす冷い風に、蒸し暑い谷の瘟気がとれて、久し振りに蘇ったような気持になった。左岸の大虎杖の林の中では珍らしく鶯が囀っていた。
一時間も上るともう雲の領であった。