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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)

山の憶い出 上

木暮 理太郎

Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens

Aozora Bunko

真北に向って少し下ると右手に深い古礼沢が覗かれる。すぐ長い水晶山の登りが始まる。恐ろしく栂の茂った山で、好い切明けはあるが、まるで薄暗いトンネルの中を辿るようだ。十一時頂上に着く。国有林の境界の標木が小高い塚の上に建ててある。眺望は言うまでもなく皆無だ。こんな薄気味のわるい処に長居は無用とサッサと下った。此下りがまた馬鹿に長い。三十分も歩いて漸く木立を抜け、笹原を二、三町登ると、一と月前に通ってまだ記憶に新らしい雁坂峠の頂上に腰を落ち付けることが出来た。

奥仙丈山塊に陣取っていた雷雲の密集部隊は、左右に鵬翼を張って徐々と押し寄せて来る。甲武信岳のあたりは既に濃藍色の幾重の雲に包まれ、破風山も亦まさに隠れんとして勁い風でも起っているらしく、其あたりの雲が頻りに騒いでいる。幸に北の方面は穏かであった。十二時峠を辞して新道を栃本に向って下り始める。少し行くと一小鞍部に達して尾根の南側に移った。脚の下は深い水晶谷である。岩壁の横を通る時には針金で釣った桟を渡ることも少なくなかった。尾根の上は岩の起伏が甚しいので、道がつけられないのであろう。石楠や横に拡がった栂が多い。