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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
洋服の人は水分の欠乏から快速を誇る膝栗毛も、宝の持ち腐れという形だ。綿入れの人は余り度々二人が休むので面倒臭いといった風にサッサと登って、いつか南の頂上の向うに隠れてしまった。
頂上に着くと三人文珠の智慧を絞って相談を始めた。水は欲しいが誰も七石山まで行って汲んで来ようという程の篤志家ではない。止むなくんば七石に泊るのが上策であるが、洋服の人は兎に角二人は明日中に帰京しなければならない。それで予定通り三峰に下ることになった。
頂上から真北にすぐ栂の深森を下ると、道は山稜の北側を搦んで、急な空渓の上端を幾つか横切りつつ、魚の小骨のような尾根を越えて、余り激しい登降もなく、北へ北へと三人を引張って行く。赤土が多くなると一寸もある霜柱が凍てた道の上にすくすくと立ち列んで、蹈む草鞋の下でサクサク骨に沁みるような音をたてる。喉の渇き切った二人は、この霜柱を見るとそっと取り上げて、土を払い落して貪り食ったと、さも大手柄のように後で鬚男に話した。何かの拍子で先へ行った鬚男はそうとは少しも知らずにいたのである。
谷の空が薔薇色に燃え始めた。葉の落ちた闊葉樹の梢を伝って明るい光が薄暗い林の中まで拡がる。