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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
然し鬚男の眼には映らなかった。
「何処に、僕は何にも見なかったが」
「確に見えたよ、ねえ君」
「ン見えた、然しおかしいな、何だったろう」
何だったろう、何だったろうで、此話は其儘消えてしまった。
少許すると行手の方向に一つ、続いて又一つ現れた。夫が焚火の光であることが分るだけに近い。愈々人の住む山に近付いたなと思うと妙に心強くなる。
突然三人は暗闇からぽうっと薄明りの映した山稜に抛り出された。木立がなくなったのである。淡い月明りに前面を透すと、青白い夜の気の漂うている中に、墨絵のような山の影が幽かに浮き出している。両側に木がないので路は反て探し憎くなった。右に左に幾度か紛れ込みながら一、二町も下ったろう、すると新しい火の光がすぐ脚の下に見えだした。三人は声を揃えて「オーイ」と怒鳴る。戸が開いて一人の男が半身を火に照されながら「オーイ」と返事する。「水があるか」と馬鹿気た質問を発する。水は無いと聞いてガッカリしたが兎も角も其処へ行くことに決めて、真すぐ下っても危なくないという確答を得た後、一直線に斜面を下って、とうとう小屋の中に転がり込んだ。
小屋には主夫婦の外に一人の男が火を囲んで話をしていたが、用談が済むと帰って行った。