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いけぶくろのみせ

山之口貘詩文集

山之口 貘

Read 山之口貘詩文集 (いけぶくろのみせ) by 山之口 貘 (やまのくちばく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,477 characters · 93 screens

Aozora Bunko

製鉄会社日本鋼管の岸壁に着いたのは五時頃で、一つ目の口からは約三時間。

二、三十隻ずつ、一塊りになった一群のダルマは、二百隻以上もあろうか。東岸壁から西岸壁を埋めていて水の上に街をなしている。みんな鉄屑を満載して、湖と摺れ摺れに平たく家鴨のような姿勢を保ちながら、荷揚げの順番を待ちあぐんでいる。

この一帯の風景は、すべてが勿論、鉄錆びの色調だ。物の形はすべてが荒々しく、すべては堅い。生活という感をぎっしり詰めてあるように、質の堅さがどこからでも見張っている。ほんの僅かばかりの緑が、西岸壁の彼方の埋立地に淡く汚みついている。

ダルマというその名や形からして、これは鈍重なかんじを免れない船ではあるが、舵という神経質な物を備えているのが憎らしく、僕は疲れ果てて、ぐっすりと夕方まで寝てしまった。

夕食後。またしても六さんは蝶ネクタイを結んだ。お茶をのみにではなく、珈琲をのみに横浜へ行こうというのである。

僕らは上陸した。船のり風には、陸に上ったというところだ。鉄屑の山々の裾を曲りくねり、鋼管の守衛詰所に立ち寄って、口髯の黒い守衛に通門票をもらった。その際、あっちを見ているふりをして、僕らの風采ばかりを気に止めているような守衛もあったが、別段何事も言わなかった。