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いけぶくろのみせ
山之口貘詩文集
山之口 貘
Read 山之口貘詩文集 (いけぶくろのみせ) by 山之口 貘 (やまのくちばく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,477 characters · 93 screens
×日×日 日
伺っているようだ。
夕方。六さんと、三つ目通りの元徳稲荷の縁日を振らついた。
お茶の半斤と、糠味噌漬にする胡瓜と菜っ葉とを買い、こころもち船乗り気分に酔いながら帰船。直ぐに六さんは、蝶ネクタイを解き、折り目のあざやかな紳士めいたズボンを脱ぎ棄て、「鈴徳商店」と染めぬかれた印半纏に身をくるんだ。僕は、よれよれのルパシュカ姿。
六さんが棹。僕は舵。三十分の後、一つ目の口に繋船。
×日×日 日
荒々しく吹き込んで来た風にたたき起されて、跳ね起きる途端に頭の上に物が落っこちた。痛む頭を片手でおさえ、狼狽てて甲板に這い上ると、舵棒に腰を下ろして六さんが揺れていた。
船は、既に、隅田河口を脱け出し、東京湾を走っている。いくら起こしても起きなかったというので、六さんは不機嫌だった。時に午前の四時頃である。
陸の背中は白みがかり、湾を抱いている怪物のようだ。湾内としては相当に荒れているらしく、唇からしきりに煙草の煙をひきちぎる風だ。波は波除けにあたり飛沫を高く浴びせかけている。
大森沖である。三十馬力の小蒸汽に曳かれているダルマが三隻、後退りするように寄り添うて来た。