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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
Read 平の将門 (たいらのまさかど) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 232,193 characters · 463 screens
恐いと思い出したら、世に誰よりも、将門の恐さというものを彼ほど知っている者はない。
おびただしい兵馬や町の庶民が逃げ廻る間を、彼は心もそらに、仮のわが家まで帰ってみた。そしてしばらく休んでいると、忠太と郎党たちとは、かえって彼の姿が見えないのを憂えて、ここへ探しに帰って来た。
「旅だ、旅だ。山越えして、下野の田沼へ行くぞ。大急ぎで、旅装をせい」
慌ただしい事だった。彼も従者も、すべて狩衣の上に、甲冑を着こみ、平常とちがい、弓、長柄など、物々しく掻い持って、同勢二十余名、山の方へ急ぎ出した。
するともう町の一角には、将門の兵が乱入していた。
寡兵を以て、常陸の大軍へ当って来たので、その攻勢には、堤を切って落ちて来た濁流のような勢いがある。
貞盛は、矢の中を、行き迷い、彼方此方と、西の山道へ出る安全な落ち口をさがし歩いた。
そのうちに、民家の一部から、黒煙が揚がった。煙の下には必ず精悍なる将門方の兵馬が駈けてゆく。
激戦は半日以上もつづき、やがて暮色も迫る頃だった。どうしたのか、まだ守りは崩れず、常陸勢の鉄兵の中に、安泰と見えていた国庁の内部から、味方の失火か、めらめらと、真っ赤な焔が上がり始めた。