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たいらのまさかど
平の将門
吉川 英治
Read 平の将門 (たいらのまさかど) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 232,193 characters · 463 screens
玉虫
玉虫
「ここは通れませぬ」――彼女は好意のある注意を与えてほほ笑んだ。「何か、御用ですの? ……。木戸を間違えたのじゃありませんか」
親しげにこう訊かれて、将門は、また、どぎまぎした。理由のない羞恥を、自分では、見ッともないと思いながら、思うほど、なお、顔を赤くした。
「いえ、水です。水を一ぱい、欲しいと思って」
「お飲がりになる水ですか」
「ええ。朝から、草息れの道を、馬で乗り通して来たので、ここにつくと急に、のどの渇きを覚えたところへ、そこらに、水音が聞えたものですから」
「ホホホホ。それなら、こちらへ来て、おあがりなさいませ。おやすいことです」
彼女は、壺の木の間を縫い、そこの瀟洒な家の水屋へかくれた。
器に水をたたえ、こんどは、廊の妻戸から立ち現われて、将門の前へすすめた。将門は、簀の子(縁)の端に腰かけた。そして、予期しなかった落着きにつつまれたように、あたりのたたずまいを見まわした。
「こうしていると、どこか、都のお住居のようですな」
「都。……あの平安の都を、あなたは、ごぞんじなのですか」
「え。永いこと、あちらへ、行っておりました」
「まあ」と、女性は、大げさな程、なつかしむ表情をして「都は、どちらに、おいででしたの」