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ゆうれいとう
幽霊塔
黒岩 涙香
Read 幽霊塔 (ゆうれいとう) by 黒岩 涙香 (くろいわるいこう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 266,479 characters · 532 screens
のだ、気が遠くなって、感じが身体から離れ掛けて居るのだ。
余が斯う見て取ると同時に其の身体は横の方へ傾いて、宛も立木の倒れる様に、床の上へと仆れた、余は驚いて馳せ寄ったが、余よりも権田の方が早く、手を拡げて余を遮り「可けません、可けません、貴方は今自分の口で明らかに秀子を捨てて了いました、秀子の身体に手を触れる権利はないのです、介抱は私が仕ますから、退いてお出でなさい」嫉妬の所為だか将た発狂したのか権田は全く夢中の有様で、秀子を抱き起して一方の長椅子の上へ靠れさせた。
見れば秀子は左の前額に少しばかり怪我をして血が浸んで居る、仆れる拍子に何所かで打ったのであろう、余は手巾を取り出し、其の血を拭いて遣ろうとするに、之をも権田が引っ奪って自分で拭いて遣った、全く此の男の恋は野蛮人の恋であると、余は此の様に思いながら熟々と秀子の顔を見たが、真に断腸の想いとは此の事であろう、其の美しい事は今更云う迄もないが、美しさの外に、汚れに染まぬ清い高貴な所が有る、世に美人は幾等も有ろうが斯くまで清浄に見ゆる高貴な相は又と有るまい、顔を何の様に美しくするとも将た醜くするとも、此の何とのう高貴に感ぜられる