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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
「…………」
勝家は、振向いて見る気もしないようだった。本丸へ来るとすぐ室へ入る前に、
「五左衛門と五兵衛とに、急いで、まいちど儂の部屋へ、参るように云ってこい」
と、小姓の一名へいいつけた。
小姓の姿は雪明りの大廊下を、光もののように寒々と走って行った。
加賀大聖寺の城主、拝郷五左衛門家嘉、石川郡松任の城主徳山五兵衛則秀、ふたりとも、柴田譜代の重臣だし、勝家が股肱の老職たちだった。
「昨夜来、熟議して、とりきめたことだが――前田への使いは、はや出してしもうたか」
勝家の言だった。
五左衛門がいう。
「御書面をもたせ、先刻、七尾へ向って急がせましたが」
それに云い足して、五兵衛則秀も、
「……何ぞ、お云い残しでも」
と、顔を窺った。
勝家はだまって頷いた。
しかし容易に、次の口は開かなかった。なお何か、思い惑うものの如く――
「使いは出たか」
「出ました……が?」
老職に、在城の一族も加え、昨夜来、熟議されたことは、かなり重大らしかった。
対秀吉との問題である。
肚はきまっている。受け身ではなく、積極的にだ。
で、ここ北ノ庄は、その予備工作に向って、八方画策の秘策を施しつつ冬に入ったのであった。