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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens

Aozora Bunko

塩

「茶わん屋を出されたか。――日吉」

「はい」

「むむ。よかろう」

「…………」

「暇を出されたことは、少しも恥辱ではないぞ、不忠、不義さえしなければ」

「ええ」

「そちの家も、以前は武士だ。武士はな、日吉」

「はい」

「飯のため、飯に使われてあくせくせんのが武士だ。天職のために、御奉公の本分のために、生涯する。飯はつき物、人間の天禄だ。――頼むから、貴様あ、飯を追って一生うろうろ送るような人間になってくれるなよ」

塩

もう夜半に近い。

疳のつよい、そのくせ体のひよわい小竹は、泣きぬいていたが、やっと藁ぶとんの中で、乳を離れかけた。

「母さん。――起きたら寒うて凍えてしまうがな。そのまま寝んでいなされや」

姉娘のおつみは、母を労って止めたが、お奈加は、

「何の、父さんも、まだ帰らぬのに」

と、起き出して、おつみと共に、宵から仕残してある夜業仕事を、炉のそばで、せっせとやりだした。

「父さん、どうしたのやろ。今夜もまた、戻らぬのかしら」

「お正月じゃほどに」

「でも、家の者は、母さんはじめ――餅一つ祝うでなし、こうして寒々、夜業して暮してるに」

「男は、交際というものもあるしのう……」