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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens
香炉変
親類の一人が、
「日吉、今夜のあの聟どのが、おまえの次のお父さんになる人だ。――弥右衛門どのとも、以前からの友達で、やはり織田家で同朋衆を勤めている筑阿弥どのだ。よいか、今度のお父っさんにも、親孝行をせにゃいかんぜ」
と、彼に云い聞かした。
日吉は、餅を喰べながら、奥を覗きに行った。いつになく、母がきれいに化粧して、知らない小父さんと並んで俯向いていた。それを見ると、欣しくなって、
「八幡、八幡、花抛れ」
と、日吉は、その晩も誰よりもはしゃいでいた。
香炉変
また、夏が巡って来た――
とうもろこしの背が高くなった。日吉や村の悪童連は、毎日、庄内川で泳いだり、田で赤蛙を捕って喰ったり、裸体で暮した。
赤蛙の肉はうまい。朝鮮蜂の尻袋とは比較にならない。疳の薬という母に、喰べることを教えられてから味をしめた物である。
だが、そうして彼が遊びに熱していると、間もなくきっと、
「――猿ウ。猿ウっ」
と、探しに来る者があった。
義父の筑阿弥である。
弥右衛門の亡い跡へ、聟として入夫した筑阿弥は、ただ働く人だった。一年たたないうちに、家計もだいぶ直って、飢える日はなくなった。