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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens
天高し
或いは、部下を変装させて、刺客として放ち、或いは、遠国の土豪と、聯絡を取って、その後の彼の行方をさがすなど、やがて秋の頃となってもなお、手を尽していた。
しかし、効はなかった。
うわさによれば、渡辺天蔵は、恵那の山づたいに甲州へ落ちのび、例の小六が苦心して製作させた鉄砲を献物として、武田家へ取り入り、甲州の乱波者の組(しのび・攪乱隊の称)へはいったということであった。
「甲州へ潜り込んでは――」
と、小六もさすがに、諦め顔につぶやいたが、しかし、無念そうであった。
すると、その噂の聞えた日頃。
「主人が参るべきでござるが」
と慇懃な使者が、門を叩いた。
この事件が起るまえに、小六が茶会によばれた織田一族の者の家来だった。
その折、問題になった「赤絵の水挿」を携えて来て、主命として使者がいうには、
「この一品より、同族の間に、御騒動があったとやら承る。ついては、この名品も、買い求めたものとはいえ、家蔵といたしおくのも心苦しいゆえ、御当家より茶わん屋へおもどし遣わされては如何。――小六どのの御一分も、それにて立つことと存ぜらるるが」
とのことであった。小六は、好意を謝し、