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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens
「敗けたッ」
信長は弓を投げ捨てた。
その時はもう、莞爾と、笑っているのである。そして、敵方の凱歌を、かえって、愉快そうに、振り向いていた。
兵学の師、平田三位と、弓槍の師範役、市川大介とが、馬をお小屋のわきへ捨てて、駈け寄って来た。
「殿、どこも、何ともございませんでしたか」
「水の中だ。何ともあるものか」
信長は、大介を見るとやはり無念そうに、
「明日は勝とう。大介、あすは憂い目を見せてくるるぞ」
と、少し眉を昂げていう。
平田三位が、傍らから、
「御帰城後、きょうの御戦法について、御講評申し上ぐるでございましょう」
と、いったが、信長はよくも聞かないで、その間に具足をかなぐり捨てて、水着一重になって、河の深い所へ行って、涼しげに独りで泳ぎまわっていた。
狂児像
信長は、端麗だった。
彼が血をうけた遠い祖先に、よほど美しい女性がいたか、容貌の秀でた人がいたろうと思われる。
彼のみならず、十二男七女子という、多くの兄妹が、みな気品の香りを持っているとか、目鼻だちがよいとか、どこか文化人らしい垢ぬけした質を持っていた。
わけて信長は、色白く、眉目秀麗で、何かにふと、きっと振り向く時など、ひとみの底から、きかない気の光が人を射ることがあった。