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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
」
葛木は卓子台に乗せた寄鍋に着けようとした箸を、(まだ。)とお孝に注意されて、そのまま控えながら話す。
お孝は時に、猪口を取って、お千世の酌を受けたのである。
「サの字。」
「考えるに及ばないよ、そんな字は一つも無い。ところが、松坂屋の前を越して、あすこは、黒門町を曲ろうとする処だ。……ふっと! 心から胸へ、衣ものの襟へ突通るような妙な事を思ったのが、その(サ)の字、左の手に持っていた切符を視て、そこにサの字が一字あったら、それから行って逢うつもりの。」
「清葉さん。」と薄目で見越して、猪口は紅を噛んだかと思う、微笑のお孝の唇。
「……止そう、そんな事を云うんなら。」と葛木は苦笑して、棒縞お召の寝々衣を羽織った、胡坐ながら、両手を両方へ端然と置く。
潰島田を正的に見せて、卓子台の端にぴたりと俯向き、
「謝罪った、謝罪った。たって手前の方から願いましたものを。千世ちゃん、御免なさい、と云って、お前さんもおややまり。」と言憎いから先繰りに訛って置く。
「あら、姉さん、私は何にも。」とお千世は熱かった銚子を持添えた、はっと薫る手巾を、そのまま銚子を撫でて云う。
「だって、今、(行って逢うつもり。