Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens

Aozora Bunko

「そうですか」

五郎は名刺をしげしげと見ながら言った。

「何と読むんです? この姓は?」

「ニオ」

「めずらしい名前ですね」

「めずらしいですか。僕は福井県の武生に生れたけれど、あそこらは丹尾姓は多いのです。そうめずらしくない」

「わたしは名刺を持ってない」

五郎はいった。口で名乗った。

「散歩に出たついでに、飛行機に乗りたくなったんで、何も持っていない」

外出を許されたわけではない。こっそりと背広に着換え、入院費に予定した金を内ポケットに入れ、マスクをかけて病院を出た。外来患者や見舞人にまぎれて気付かれなかった。煙草を買い、喫茶店に入り、濃いコーヒーを飲んだ。久しぶりのコーヒーは彼の眠ったような情緒を刺戟し、亢奮させた。

〈そうだ。あそこに行こう〉

前から考えていたことなのか、今思いついたのか、五郎にはよく判らなかった。

「そうのようですね」

丹尾は合点合点をした。

「ぶらりと乗ったんですね」

「なぜ判る?」

「あんたは身の廻り品を全然持っていない。髪や鬚も伸び過ぎている。よほど旅慣れた人か、ふと思いついて旅に出たのか、どちらかと考えていたんですよ。飛行機には度々?」