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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens
「お互いに、不幸な話は止そう」
「わたし不幸よ。不幸だわ」
妓の眼に、涙があふれて来たようであった。瞼を閉じた。切ないほどの愛情が、どっと私の胸にあふれた。歯を食いしばるような気持で、私は女の頬に手をふれていた。
翌日の昼、霧雨の中を谷山に着いた。壕の中は湿気に満ち、空気は濁っていた。暗号室は、壕の一番奥にあった。霧雨を含んでしっとり重い略帽を手にさげ、梁で頭打たぬよう身体をかがめて入って行った。高温のため、眼鏡がふいてもふいても直ぐ曇った。
「今すぐ桜島に発って呉れ。あそこには暗号の下士官がいないのだ」
「一人、居る筈ではないのですか」
「赤痢で、霧島病院に入院したんだ」
掌暗号長とこういう話をした。
「すぐ出発します」
暗号室を出て来ると、顔見知りの下士官や兵隊がいて、やあやあとあいさつした。此処はずっと雨で、二三日前は、居住区の方の壕の入口が壊れたという。砂岩質の、もろい土質であった。湿気のためか、壕内はいやな臭いがした。兵隊の顔色は皆蒼白かった。
佐世保海兵団から、桜島に行くべき兵隊が六名、間違えて谷山に来ているから、それらを連れて行けと言うので、私迄入れて七人、壕の入口に整列し、当直将校にあいさつし、また霧雨の中を赤土の路を踏み、市電の停留場へ進んで行った。