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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Read 江戸の火術 (えどのかじゅつ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,929 characters · 36 screens
先程から半十郎の胸に渦巻いていた疑念は、主人の顔を一と眼見ると、一ぺんに解けてしまいました。
「や、其方は矢張り」
「応ッ、稲富喜三郎だよ」
二人は灯を挟んで、屹と顔を見合せたのです。主人の喜三郎は三十前後、半十郎の華奢な色白な知識的なのとは反対に、少し力んだ顔、鋭い眼、浅黒い顔の色、顴骨稜々とした偉丈夫で、野心の為には、どんな事でもやり遂げ兼ねない、風格の持主です。
「井上半十郎と知って、手籠にしたか、稲富」
「いかにも」
「卑怯だろう」
半十郎はハタと睨みました。疲れ切った身体を縛り上げられて、五体の節々はメリメリするほど痛みますが、それより曾ての朋友喜三郎が、こんな卑怯な方法で自分を手籠にした激怒が胸にこみ上げます。
「卑怯かも知れぬ――が、お互に怪我をし度くない方便だ、まア許せ半十郎」
喜三郎の面は夜の水のように無表情です。
「これが、五年目で逢った旧友のすることか、稲富、恥を知らぬか」
「旧友? ――成程そんな事もあったな、井上、だが、今では父親同士が殺し合った、不倶戴天の敵ではないか、俺と貴公の間にはもう、友情など言うものは無い筈だ」
「友情は無くとも恥はあるだろう、――其方も武士なら、妹を使って、『井上流砲術秘巻』