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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens
「それではあんまり素ッ気ない。……何かお話が……まだ何か!」
これはまさしく当然であった。
恋人同志であるのだから。
しかも江戸の地にいた頃には、一つ家に住んでいた二人であった。
それが旅へ出ると分れ分れとなり、顔を逢わせることもなかった。
数日ぶりで逢ったのである。
だのに何んというあわただしさぞ! いかに大事の前とはいえ、用件ばかりを手短かに述べ、それだけで別れて行こうとは。
「兵庫様」
と怨ずるように、
「まだお話が、何かお話が……」
そう云う菊女を睨むように見、
「拙者は多用、手間どってはいられぬ。……そなたもご存知の松浦民弥氏、同じこの城下の桔梗屋というに、宿泊をしておらるる筈、松浦氏にも今夜の決行、一応至急話して置かねばならぬ。……ただし同氏におかれては、右内殿奪取に関係なく、例の宥免状たずさえて、紀州へ急がねばならないのでござるが。……ご免!」
と兵庫は小路へそれた。
脇本陣柊屋と同格の旅籠、桔梗屋の奥の静かな部屋に、民弥と梶子とは泊まっていた。
床の間の脇の壁に寄せかけて、巨大な箱が置いてあった。
人形を入れた箱であった。
本来なれば問屋にあずけ、問屋の手によって道中安全に、京まで送るのが順当なのであるが、二人はそれをしなかった。