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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens
――こう思うと三十郎には得意と皮肉とが、つくづく感じられてならないのであった。
梶子は眉間へ縦皺を寄せ、不快と怒りと憎しみとを、あからさまに顔にあらわしていたが、
「機嫌など何んで直るものかよ。……こんな目にあわされて何んの機嫌が! ……何んと云おう、乱暴狼藉! ……馬鹿にするにも程があるよ!」
梶子の態度は伝法であった。
さすがに伊豆守の女隠密、これまで生死の巷などへは、幾度となく立ち入った経験はあり、それに貞操というようなことなど、何んとも思っていない女だったので、こんな境遇になった今も、恐怖などは少しも感じていなかった。
以前は自分の用心棒、いわば部下だった三十郎ずれに、こんな目に逢わされたということについて、癪にさわっているばかりであった。
二人はそれっきり黙ってしまった。
古い障子、破れた襖、煤の落ちそうな黒い天井、この穢い部屋の中へも、真昼の陽は明るく射して来ていて、壁に添って置いてある人形箱の、白い木地ばかりが清らかに見えた。
「ねえ三十郎さん」
と梶子は云った。
「これから妾をどうする気なのさ」
「さあ」
と三十郎は苦笑いをしたが、
「さあ……しかし……まあまあそれは……それはどうでもよろしいとしまして、当分ここでご静養、ご静養なさるがようございます」