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しゅくず

現代日本文学館8 徳田秋声

徳田 秋声

Read 現代日本文学館8 徳田秋声 (しゅくず) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 327,364 characters · 638 screens

Aozora Bunko

十六

「今日の新聞かね。」

四十男の主人は、にやにやしながら、茶の間から新聞をもって来て、銀子に読まし、新婦の生家が、倉持とは釣合の取れないほどの豪家であり、高利貸としてあまねく名前の通っていることを話して聞かせた。式は銀子が塩釜で遊んでいるころ、仙台の神宮で行なわれ、宮古川で披露の盛宴が張られたものだった。

十六

銀子の帰りが遅いので、分寿々廼家のお神と内箱のお婆さんとで、看板をもった車夫を一人つれて、河縁を捜しにやって来た時、銀子は桟橋にもやってある運送船の舳にある、機関の傍にじっとしゃがんでいた。暗い晩で河風はまだ寒かった。河口に近く流れを二つに分けている洲の方に、人家の灯がちらちらしており、水のうえに仄かな空明りが差して、幾軒かの汽船会社の倉庫が寒々と黒い影を岸に並べていた。

銀子は一年いるうちに、いつか嫌いであった酒の量も増していたが、その晩は少し自暴気味に呷り、外へ出ると酔いが出て足がふらふらしていた。ちらちらする目で、彼女はざっと記事を読み、鉄槌でがんと脳天をやられたような気持で、煙草屋を出たのだったが、どうしても本家へ帰る顔がなく、二丁ばかりある道を夢中で歩いて、河縁へ出て来たのだった。