Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しゅくず
現代日本文学館8 徳田秋声
徳田 秋声
Read 現代日本文学館8 徳田秋声 (しゅくず) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 327,364 characters · 638 screens
十七
そして到頭彼は座を蹴るようにして立ちあがった。そして羽織を着ると折鞄とステッキをもって外へ出た。彼はどこかでいくらか手のかかった晩飯も食べたいと思った。
葉子は北山を従えて後から尾いて来た。
「私おもちします。」
北山はそう言って、彼の手から折鞄を取ろうとしたが、庸三はステッキを振り振り、暗い路を急ぎ足で歩いて行った。温かい雨がぽつりぽつり顔を打ちはじめた。そして日陰の茶屋まで来てみると彼もひどく息がはずんでいた。
二階の部屋に納まったころ、入口で葉子たちと女中との話し声がしていたが、下の風呂場へおりて行った時分には何の気配もしなかった。
滋くなって来た雨の音を聴きながら、心の穏やかでなかった庸三は、うとうと微睡んだと思うと目がさめたりして、そこに侘しい一夜を過ごした。
十七
翌朝床を離れた庸三は、僅かの時間しか熟睡できなかったので、まだ目が渋く頭がもやもやしていた。夜来の雨に潤った新緑の鮮やかな庭木が、きらきら光って、底ふかい空の青さにも翳しがなかったが、心臓の弱い庸三はいつもこういう場合の癖で、ひどく濁りっぽい気持になっていた。
葉子の入院の前後、隣りの下宿の部屋にいたり、庸三の書斎へ来ていたりしたころには、喧嘩をするたびに、葉子が部屋を飛び出して行くことになっていたが、今庸三は自分で追ん出た形で、何か