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しろばなのあさがお
白花の朝顔
泉 鏡花
Read 白花の朝顔 (しろばなのあさがお) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,880 characters · 62 screens
五
六
額の裏から、ばさりと肘に乗ったのは、菅笠です。鳩の羽より軽かったが、驚くはずみの足踏に、ずんと響いて、どろどろと縁が鳴ると、取縋った手を、アッと離して、お絹は、板に手をついて、真俯向けになりました。
おでんの膳なぞ一跨ぎに、今度は私の方が欄干へ乗出して、外套を払った。かすりの羽織の左の袖で、その笠の塵を払ったんです。一目見ると分ったのです。女の蒼白く見えたのは、絵の具です。彩色なんです。そうして、笠に描いたのは、……朝顔――
「朝顔?」
五
ここに写し取る今は知らず。境の話を聞くうちは、おでん燗酒にも酔心地に、前中、何となく桜が咲いて、花に包まれたような気がしていたのに、桃とも、柳ともいわず、藤、山吹、杜若でもなしに、いきなり朝顔が、しかも菅笠に、夜露に咲いたので、聞く方で、ヒヤリとした。この篇の著者は、そこで、境に聞反したのであった。
「朝顔?」
と。
六
「――その時から、やがて八九年前になります――山つづきといっても可い――鶯谷にも縁のありますところに、大野木元房という、歌人で、また絵師さんがありまして、大野木夫人、元房の細君は、私の女友だち……友だちというよりおなじ先生についた、いわば同門の弟子兄妹……」