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しろばなのあさがお
白花の朝顔
泉 鏡花
Read 白花の朝顔 (しろばなのあさがお) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,880 characters · 62 screens
四
が、この巨大なる躯は、威すものにも陰気を浴せた。それら天井を貫く影は、すっくと電燈を黒く蔽って、廊下にむらむらと影が並んで、姿見に、かさなり映った。
「ここへ来た、幽霊が。」
「ひゃあ。」
「あ、力士の中に芸妓が居る。」
「きゃッ、あれえ、お関取。助けてえ。」
「やあ、何じゃい。」
縋りつかれた関取がたじろいで、
「どえらい頭じゃい。桟俵法師い。」
「お絹さん――お絹さん。ちょっと。」
戸を開けて、立ちながら密と呼ぶと、お絹は、金煙管に持添えた、女持ちの嵯峨錦の筒を襟下に挟んで、すっと立った。
前髪に顔を寄せ、
「何だか落着きません、一度、茶屋へ引揚げよう。」
四
その夜も――やがて十一時――清水の石段は、ほの白く、柳を縫って、中空に高く仰がるる。御堂は薄墨の雲の中に、朱の柱を聯ね、丹の扉を合せ、青蓮の釘かくしを装って、棟もろとも、雪の被衣に包まれた一座の宝塔のように浄く厳しく聳えて見ゆる。
東口を上ると、薄く手水鉢に明りのさしたのは、斜に光を放った舞台正面にただ一つ掲げた電燈で、樹にも土にも、霊境を照らす光明はこの一燈ばかりなのが、かえって仏燭の霊を表して、竜燈……といっては少し冥い。