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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

Read 白花の朝顔 (しろばなのあさがお) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,880 characters · 62 screens

Aozora Bunko

「ほんに。」

「いや、一台は、そのまま。幌は掛けたまま頼むよ。」

笠を預けて出たんです。が、今おもっても、冷汗が流れます。この俥をかえしていたら、何の面目があって、世にお目に掛かられよう。

見て下さい。――曲りくねった長い廊下を、そうでしょう、すぐ外は線路だという、奥の奥座敷へ通って、ほとんど秘密室とも思われる。中は広いのに、ただ狭い一枚襖を開けると、どうです。歓喜天の廚子かと思う、綾錦を積んだ堆い夜具に、ふっくりと埋まって、暖かさに乗出して、仰向けに寝ていたのが、

「やあ。」

という、

枕が二つ。……

「これはおいでなさい。」

眉の青い路之助が、八反の広袖に、桃色の伊達巻で、むくりと起きて出たんですから。

「遅いので、何のおもてなしも。……さ、さ、蜜柑でも。」

片寄せた長火鉢の横で、蜜柑の皮。筋を除る、懐紙の薄いのが、しかし、蜘蛛の巣のように見えた。

「――そうですか、いずれ明日。――お供を……」

「いや、待たせてあります。」

路之助は、式台に、色白くその伊達巻で立った。

お絹が廂を出て、俥の輪に摺り寄った処を、

「握手をしますよ。」

半身を幌から覗くと、

「は、は、は、どうぞしっかり。