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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
Read 真珠夫人 (しんじゅふじん) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 289,296 characters · 578 screens
三
殊に、光一があゝなってしまえば、お父様の子はお前丈なのだ。百万円はおろか、お父様の首が飛んでも、お前を手離しはしないぞ。ハヽヽヽ。」
父は、瑠璃子を慰めるように、快活に笑った。瑠璃子の心も、父に対する愛で、一杯になっていた。何時までも、父の傍にいて、父の理解者であり、慰安者であろうと思った。
「妾もそう思っていますの。何時までも、お父様のお傍にいたいと思っていますの。」
そう云って瑠璃子は初めてニッコリ笑った。嵐の過ぎ去った後の平和を思わせるような、寂しいけれども静かな美しい微笑だった。
三
二つの忌わしい事件が、渦を捲いて起った日から、瑠璃子の家は、暴風雨の吹き過ぎた後のような寂しさに、包まれてしまった。
家出した兄からは、ハガキ一つ来なかった。父は父でおくびにも兄の事は云わなかった。人を頼んで、兄の行方を探すとか、警察に捜索願を出すなどと云うことを、父は夢にも思っていないらしかった。自分を捨てた子の為には、指一つ動かすことも、父としての自尊心が許さないらしかった。
こうした父と兄との間に挟まって、たゞ一人、心を傷めるのは瑠璃子だった。彼女は、父に隠れて兄の行方をそれとなく探って見た。